想定し得なかった環境のもと、一日一日を営むようになりました。企画の延期、中止、生活の変容、不要不急への懐疑心、ものをつくることとはいったい。
この度の展示の名は、島田荘司の小説『眩暈』からつけました。この小説は、現実だと思われる世界と夢のような世界を探偵たちが行き来する内容です。
ふたつの世界の境には日記が在ります。
日記を跨ぎ世界を反復する『眩暈』の人の他に、J-P・サルトルの『嘔吐』の中で省察を重ね次第にもよおす〈吐き気〉を知る人や、京極夏彦の『姑獲鳥の夏』で傾斜道を何度も往復するさなかに見えなかったものを認知していく人。この人々にとって、ある行為を「繰り返すこと」とは眩暈をおこすように、世界と自己との間を歪めるまたは深める過程でありました。それが私にとっての制作ではないかと考えるようになりました。
今日に至るまで、幾度となく大変多くの方に助けていただいております。誠にありがとうございます。
「2020.12 Vol.9 女流画家協会会報」掲載文
個展 レスポワール展 ―眩暈―
2020.8.3-8
銀座スルガ台画廊
野村 紀子
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